豆腐のはなし(3)にがりからすまし粉へ

前回までにがりにまつわる話をしてきたのですが、日本人が大切にしてきたにがりは、戦争のために取り上げられてしまったのでした。

にがりの代用品として使われたのが、すまし粉です。すまし粉は硫酸カルシウム、石膏と同じものです。すまし粉の起源は古く、中国ではにがりとならんで古くから豆腐に使われてきました。

すまし粉はにがりと同じように2価のプラスイオンとなるカルシウムをもっているので、これがマグネシウムと同様の働きをします。ただし、にがりよりも水に溶けにくいため、反応がゆっくりです。その結果、水持ちがよくなめらかな食感の豆腐になりますが、その分水っぽくなるのはいなめません。

このようなわけで、にがりの代わりにすまし粉が使われるようになったのですが、戦後にがりが復活するかといえばそうではなく、結局すまし粉が定着してしまいました。これは、にがり生産の再開が困難だったこととすまし粉の方が作業が簡単で歩留りもいいことが理由です。戦後の食糧難のときに豆腐はにがりでなくちゃなどとは言っていられなかったのでしょう。その後も高度経済成長のなかでにがりは忘れ去られてしましました。

にがりが復活し始めるのは、ようやく1980年代後半一億総グルメなどと呼ばれた時代になってからです。ちなみに、グルメ漫画「美味しんぼ」の連載開始は1983年でした。

つづく