トキへの思い

新潟県佐渡では、野生のトキがもう350羽以上も暮らしているんですね。すごいなあ。飼育していたトキたちを放鳥してから10年。その当時は、ちゃんと生きていけるか心配でしたが、野生の力を発揮してくれているようでうれしく思います。

トキの数がこんなに増えたため、環境省は、トキを「野生絶滅」から「絶滅危惧IA類」に変更することのことです。とはいえ、絶滅したと思っていたものが発見されたというような話とは違うのでちょっと目をぱちぱちしてしまいます。トキの場合は、絶滅したのち、中国から導入したわけですから。

こういう言い方をしてしまうと、よそから連れてきたんじゃ意味ないといっているみたいですね。そうではないんですが、トキの話をしていると、「その中国のトキの群れは日本のと同じなの?遺伝的に」みたいなことはよく聞かれたものです。

そう聞かれるたびに、そうかあ、そこ重要なんだ。と呪いのようなものを感じつつ苦笑いするのが常です。日本のものも中国のものもトキの形をしているので遺伝子はおおよそ同じだと思いますが、細かくたくさん遺伝子をみていけば全く同じということはないでしょう。

日本で生きていたトキだけをよみがえらせることにしか意味を見出さないなら、どんなにトキが増えてもそれは野良トキということになるのでしょうか?それはちょっと悲しいですね。

なんでトキを復活させることに意味があるのか?ときかれたとき、生態学者的な答えの一つとしては、「環境を守るための指標となる」だったりします。トキは比較的大型でドジョウや貝やカエルなどを食べる肉食動物です。このような生き物は食物ピラミッド(注)の上の方にいて(高次の捕食者)なので、その生き物が存在するということは、その生き物が生きていけるだけの環境が守られていますよ。という筋書きです。

でも、ドジョウをいけすで飼って餌場にしようとか営巣木を電柱でつくろうとか、問題解決能力が高すぎる方の意見もあって、やっぱり目をぱちぱちさせたものです。トキだけを生かそうという話になってしまうと、指標としてはぜんぜん役にたたないのです。

ではなんの意味があるというのか。もしかすると意味なんてないのかもしれない。でも、トキを中心としてさまざまな活動が広がっているし、直接関係していなくても、トキのことをちょっと考える。トキだけでなくて、田んぼのこと、ドジョウのこと、他の生き物ことをちょっとずつ考える。そんなちょっとずつの思い。それが一番だいじ。

注:現在は、食物ピラミッドのように単純な関係ではなく、網のようにかかわっているということで、食物網とかウェブとよばれる。

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